旅の足跡「比叡山延暦寺 後編」
ならば、答えはひとつ。
「歩いて下りるか」
どうかしてるぞ、俺。
そもそも比叡山はかなり高い山。それこそ本格的な装備でもなければ到着は困難である。
しかしこれ以上金を落としたくなかったので、思いついた時には既に下り始めていた。
しかし、これこそが過ちだった。
この山を舐めていた。何やら動物の声もする。
落ちればジ・エンド。見つかればジ・エンド。落ちて死ぬのも嫌だし餌になるのも嫌。
とにかくゆっくりと降りる。幸い自転車の鍵に鈴を付けていたため、揺らすように歩いて鳴らして行った。
とはいえ、こんなことをしていては時間も当然かかる。
2時半には下り始めていたが、市街地が見えた時には4時前。2時間近くの下山は、「山は危険である」と自身に深く刻み込まれたものとなった。
しかし、自転車に乗り、比叡山に別れを告げて、琵琶湖畔に沿って走っていた時。
日の入りだ。なんて美しいのだろう。
これこそが自分が追い求めていた景色。これだからチャリは止められない。
こうして、突発的なチャリ旅は、波乱万丈の報酬を以て幕を閉じたのだった。